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煙と共に明ける年

8月23日
読了時間: 3分

更新日:8月31日




2025年1月28日付の陸奥新報「望遠郷」に掲載されたエッセイです。

ドイツの大晦日「ジルベスター」は、爆竹や花火の音、街を包む火薬の匂いとともに迎える、にぎやかな一日です。

ベルリンで過ごした年越しの記憶と、静かな日本のお正月とは異なる新年の風景について綴りました。



望遠郷第5回目 煙と共に明ける年


年末からお正月とあっという間に時は過ぎもう1月も後半に差し掛かってきた。今回の掲載ではドイツの大晦日の思い出についてお届けしたい。若干時期がずれてしまったことはご愛嬌ということでお許しください。



 ドイツではクリスマスが終わりホッと一息つく暇なく、ジルベスター(大晦日)がやってくる。クリスマスの時期は実家に帰っている人も多いため町中が少し静かになっているけれども、31日には皆戻ってくるから賑やかだ。ドイツでは花火は通年禁止されているが、12月29日から31日の3日間だけ店頭で発売が許可されており、大晦日と元旦の2日間だけ使用しても良いことになっている。大晦日は昼頃から、夜を待ちきれない人たちがフライングで鳴らしてしまう爆竹の爆発音が聴こえ、きな臭い煙のにおいが漂ってくる。そうすると「ああ、今年も今日で最後だなぁ」と感慨深くなる。今年の反省、来年の目標などを考えながらその日を過ごす。


 13年間ドイツに滞在していたので13回分のジルベスターの素敵な思い出があるけれど、特に思い出に残っているのは2002年、ドイツでの留学生活を始めたばかりの頃の1度目のジルベスターだ。この日はベルリン国立歌劇場で開催されたコンサートを聴きに行っていた。この国立歌劇場はウンターデンリンデンというブランデンブルク門から真っ直ぐに伸びた道沿いに建てられており、この通りからはブランデンブルク門の打ち上げ花火が綺麗に見える。日本のテレビでもよく見る光景だ。午前零時に近づくにつれ、爆竹だけでなくロケット花火の音もあちらこちらの至近距離から聞こえ、その場にいることが少し危険に感じられるような状態になってくるのだが、当時の私は若くて怖いもの知らずだったこともあり、その場に留まっていた。そして日付が変わった瞬間の歓声と見事な打ち上げ花火に圧倒され、本当に感激したことをよく覚えている。その時はまだ現地の大学に入学する前の浪人中だったので、来年こそはベルリン芸大に入るぞ、と気合いを入れて帰宅した。その甲斐あって無事合格するわけだけれども、一番辛かった時に見た光景というものは、やはり記憶に残るものだなといま改めて思う。



 このようにして打ち上げ花火やロケット花火で盛大に祝うことで町中は煙だらけになる。この煙は元旦の朝になっても完璧には消えない。日本の元旦は朝日と共に始まり、ご来光を拝んだりして、神聖なキリッとした気持ちで新年をスタートする人が多いかと思う。しかしドイツは違う。夜通しでどんちゃん騒ぎをして、日が明けてくる頃にフラフラになりながら朝帰りをするから、元旦の日の始まりは深い眠りにつき、目覚めるのは夕方だ。日本人の私としては、なんとも荒廃したような気分になったわけだけれども、日本に戻り静かな日本の年末年始に慣れてくると、今度は賑やかで煙の臭いが充満したドイツの年末年始が懐かしくなるのだから、我ながら我がままなものだなぁと思う。



「掲載後記」


当時、ベルリンフィルまで歩いて数分のPotsdamer Str.の学生寮の、西ベルリンが見渡せるベランダ付き12階という、なんとも運のいい部屋に住んでいたので、ブランデンブルク門で打ち上がる花火や、街中で打ち上がる花火をベランダに出て見ることができました。そこに学校の友達がジルベスターには大集合でみんなでワイワイと過ごしたのは良い思い出です。




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